※この紀行文は、2008年の「ルルドの奇跡」上演プログラムに掲載されたものです。

ルルドの町に到着

冬の終わりの2月28日、私はルルドの街にいました。姉と二人で前日の夜パリへ到着し、一晩寝て早朝にルルドへ出発。その日は霧がかっていて、小雨が降っていたとても寒い日。パリのホテルを朝の6時頃出発して、列車で6時間半。フランスとスペインの国境となっているピレネー山脈のふもとにルルドはあります。ルルド駅に着くと列車の中ではあんなに曇っていたのに、太陽も見えてとても暖かく感じました。


ルルドの街並み

羊の番をするベルナデット像の前で

泉に早く行きたい!と思う気持ちを抑えて、まずは地図を片手にホテルへ向かいました。駅からは、可愛いホテルが並んでいたり、お土産屋さんがあったりとても素敵な街並みで、いたる所にベルナデットの顔や看板がありました。そんな街並みを楽しみながら歩いていたら迷ってしまい、歩いても歩いてもホテルに着かないんです。ルルドでの滞在は一泊だったので、どんどん時間がなくなっていくことへの焦りと不安がおしよせてきました。もう一度来た道を戻り、地図を見直して、なんとかホテルへチェックインできました。

 

ルルドの泉と洞窟

そして、いよいよ泉へ・・・・・。
泉とホテルはとても近く、すぐ行くことができました。一歩、聖域の中に入ると、今までの不安や焦りが、すっと消えていったんです。晴れやかで、とてもすがすがしい気持ち。そして、守られているような温かな空気を感じ、ほっとする気持ちになりました。ゆっくり見て歩こうと思っても、体が洞窟の方へ引き寄せられる感じで早歩きになり、あっという間に洞窟の前に。


マッサビエルの洞窟

マリア様を見上げて

胸が高まりました。写真や映像でしか見たことがなかったルルドの泉に、今立っている。私は、しばらく洞窟とマリア像をじっと見つめていました。そこは祈りに満ちた空間でした。全ての人が正直に自分と向き合い祈っているのです。洞窟の岩を触っている人もたくさんいました。聖域の中を歩く人々の顔はみんな希望と喜びに満ち溢れているように見えました。私も、ここに来られたことへの感謝と、自分の素直な気持ちと言葉で祈りを捧げました。もちろん泉の水も飲みました。冷たくて、とても美味しい水。なんだか体の中が洗われる感じがしました。ベルナデットはこの辺りからマリア様を見たのかなとその場所に立ってみたり、辺りを見回してみたり。1858年2月18日、マリア様3回目のご出現の時、『私のために15日間ここに来て下さると嬉しいのですが・・・』とマリア様はベルナデットにおっしゃいました。その約束を守ったベルナデットは、150年前の今日もここへ来ていた。不思議な気持ちになりました。私は、とても長い時間、洞窟にいました。たくさん見て回りたいところがあるのに、何故かそこから動けませんでした。

 

ベルナデットの生家へ

洞窟の後はベルナデットの生家のボリーの水車小屋とマリア様ご出現時にベルナデットが住んでいたカショー(牢獄跡の家)を見に行きました。ベルナデットの生家は、古い木の湿った匂いがして、その匂いでベルナデットが住んでいた当時を感じることができ、今にも家族の笑い声が聞こえてくるかのようでした。ここでベルナデットは幸せに暮らしていたんだなぁと、目を閉じてしばらくその空気を感じていました。


ベルナデットの生家

生家(ボリーの水車小屋)で

次にカショー。とても、冷たいような外観です。中に入ると、ここで本当に家族6人が暮らしていたのかと疑ってしまうほどの狭さ。今はとても綺麗にはなっているけれど、当時はとても暗くじめじめしていて、庭に積んである鶏糞の悪臭がいつもしていたといいます。でも、ベルナデットの家族はみんな仲良く明るくて、そんな家の中でも、いつも食事の前のお祈りの声と家族の笑い声が絶えなかったそうです。


カショー(牢獄跡の家)で

カショーの内観

あんなに早朝にパリを出たのに、この時にはもう夕方になっていました。そして姉と二人で可愛いレストランに。フランス語がほとんど分からない私たちにお店の方は一生懸命メニューの説明をして下さって、おかげで美味しい食事をとることが出来ました。

レストランからの帰り道、また泉へ行きました。夜の泉は、ロウソクの灯りがとても綺麗で、昼間来た時よりも、もっと静かで神聖な空気が流れていました。その光景は本当に美しかったです。あまりの美しさと神聖なその空気に写真を撮ることも出来なかったです。あの光景は忘れられません。感動的でした。

次の日も泉に行ったり、色々と見てまわりました。時間がある限り歩き、昨日迷ったのが嘘のように、地図も見ず、だいたいの場所は行けるようになっていました。本当に居心地がよくて、もっとここにいたい!また来たい!と思わせてくれる街でした。ルルドへ訪れる病人や障害者の方たちもきっとそうだと思います。全ての病んだ人々に向けられる温かいまなざしがルルドの街にはあります。ルルドで、病が癒やされたという話は沢山あります。でも、たとえ、泉の水で病気が治るという奇跡が起こらなくても、病や、障害をもった人々の心に、生きる希望を与えてくれる場所なんだと実感することができました。

 

そして、ヌヴェールへ

ルルドからパリに帰った翌日、私たちは、ベルナデットが眠る、ヌヴェールのサン・ジルダール修道院へ向かいました。ルルドよりは近く、列車で2時間半くらいで着きました。駅からも迷うことなく、修道院に着くことができました。


ヌヴェールの駅

ベルナデットが眠るサン・ジルダール修道院

そして、ベルナデットの眠る聖堂へ・・・。
扉をあけるとすぐそこに眠るベルナデットの姿。一瞬、息をのんだままそこから動けなくなり、それからゆっくりと近付きました。思っていたよりも、ずっと小さいベルナデットの体から発せられるオーラは、言葉ではいい表すことができない感動を私に下さいました。まるで眠っているようなベルナデットのお顔は本当に心を打つ美しさでした。とてもとても美しかったです。彼女の前に座り、しばらくお祈りした後、私は、今回ベルナデット役をやらせて頂くご報告と、ベルナデットに聞いて頂きたかった私のことを語りかけました。彼女はただ眠ったまま、そんな私を受け入れ包んで下さっているような気がしました。気が付くと、涙がとめどなく溢れていて、とても幸せな気持ちになっていました。とても、不思議な感覚でした。今まで、体験したことのないような、とても不思議な・・・。今回、「ルルドの奇跡」という素晴らしい作品、そして、ベルナデットに出会わせて下さった、全ての方、そして、神様に心から感謝しています。

ベルナデットは今、私に色々なことを教えて下さっています。「ベルナデッタ~魂の日記~」に書いてある、『決心』に私がとても衝撃を受け、今は私にとっての決心にもなっている言葉があります。
『決して落胆しないこと。わたしの身におこってくる全てのことにおいて、神の聖なるみ旨を見つめること。それがわたしのために神がお許しになる最大の善であると考え、万事について神に感謝すること』
これは、今、私をとても勇気付けてくれる言葉でもあり、私を救ってくれる大切な言葉です。ベルナデットに出会ったことによって、私のこれからの生き方が変わることは間違いありません。そして、ご観劇下さった皆様にも、この作品が、ルルドで起こった奇跡、ルルドの街、ベルナデットを、もっと知りたいと思うきっかけになって頂けたら大変嬉しいです。ベルナデットや、ルルドの街は、きっと皆様の心を温かくし、生きる希望と勇気を与えて下さると思います。

 

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